伊予鉄道株式会社

坊っちゃん列車に乗ろう!

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坊っちゃん列車物語

第8話「運転競技」

挿絵 運転競技、これは運転関係でよく行っていました。

 機関車の競技は、毎日、一定の時間、郡中・横河原線を運転し、その技術を争うのである。特に、正確な運転時分で、石炭の消費量を少なくするのが問題点で助士の腕次第が大である。特に、今回は1位から5位までの賞金が、増額されることになっていた。

 K君は、気分的に、こんな競技はいやでたまらず性分が合わず、いいかげんの気持ちであった。特に、今回一緒の乗り組みの、イガク機関士は日頃、運転技術や石炭消費には、うるさい最古参機関士で助士連中から嫌われていた。

「K、お前そう焚くな、ドベになるぞ、しゃんとせい」
「ドベになってもええがな、缶の火を消すわけんいかんけん、そう袖を引張らいでもよかろがな、やぶれてしまうがな」
 K君が缶を焚こうと、左手で石炭をすくい、右手で缶の蓋の取手に手をやると、その右袖を、焚くな焚くなと引張るので、とうとう右の袖の継目が千切れ始めた。
「K、わしが言うんがわからんのかあ、前の郡中線もそうじゃったが、お前ちいと、よもだぞよ」
「なんじゃあな、わしがよもだな、わしゃ、いる石炭はじゃんじゃん焚くけんな」

 イガク機関士は頭にきていた。同乗のチョボ監督が、
「お前らどしたんぞ、喧嘩なんかして、二人で協力してやらないくまいげ、運転中ぞよ」
「そんなこと言うけんど、こいつはろくなもんじゃない」
「なにぬかしとんぞ、自分の運転の悪いのを棚に上げて、運転が悪いけん石炭がなんぼでもいるんじゃ」
 K君一人事で言ったつもりが、聞こえてたらしい。
「なにー、横着もんが」
 K君の、右袖を思い切り引張ったので、とうとう、K君の右腕から、右袖が抜けてしまった。
「お前ら、やめんかあ、しぶといぞよ、Kお前がいかん、若いんじゃけん我慢せい、イガクさん、あんたも大人げないぞな、喧嘩なら帰ってから、ゆっくりおやり」
 チョボ監督の仲裁で、一応おさまったが、二人は、ろくに口もきかず喚呼応答もしなくなった。

 K君、腹が立ち、少し石炭を焚きすぎ、予定の石炭量で足りず、立花まで石炭を送ってもらい、どうにか市駅へ到着した。機関庫へ入庫すると、
「石炭が足らん言うのは、お前が始めてぞよ、このよもだが」
 イガク機関士はグチをこぼした。K君、機関車から飛び降りて、デレイキをかまえた。
「なにや、イガク降りて来い、どづいたる」
「なにい、どしてもわしに喧嘩売るつもりか」
「おお、こうなったら、やぶれかぶれじゃ、今まで、ムズムズしとったんじゃ、やったる」
 K君、ように頭に来てしまった。
「ようおい、みんなKが狂ったぞ、わしゃあ、殺されるがあ」
 みんながやって来た、チョボ監督の再度の仲裁でなんとか治まったがK君、係長にコッテリしぼられた。しかし、当分の間、一緒に乗務しなくなったので腹の虫が治まった。

 成績発表は、やっぱり、乗組20組のなかで19位、一組は機関車故障で除外となり結果的にはドベであった。これにイガクさん日頃のおおもの言いもクシャンである。
附記
 運転競技は、郡中線、横河原線の午前中、乗客の少ない、時間帯の同じ時間を利用し行われていました。天候等で、違いが大きく参考にならず数回で取りやめました。

“腕まくり 意気込んで見たが 袖はなし”

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