伊予鉄道株式会社

坊っちゃん列車に乗ろう!

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坊っちゃん列車物語

第7話「機関方」

「コプさん、すまんけんど、堀川へ行ってくれるかな」
「堀川の荷物は、荷役がすんだら側線まで押してこないくまいが」
「そうぢやけど、仲仕が少いなので荷役がちょっと遅れとるんよ」
「Kよい、久し振りに堀川の浜風を吸いに行って見るかいの」

 機関車に駅員を乗せ荷役場へ行った。荷役場では、仲仕数人が船から荷物を貨車に積んでいた。
 コプさんとK君、仲仕の仕事を見ていたが仕事が一向に進まない。
「コプさん、このまま待ちよったら遅れてしまうぞな、わしゃ、文句言うたろ」
 K君、頭に一寸きていた。
「おいさんら、さっさっと荷物を積んだらどうぞな、わしら、いつまでも待ちよるわけにいかんがな」
「若い機関方よい、そう言うな」
 K機関方と言われて、びっくりした。
「コプさんあの仲仕、わしに機関方と言うたが、なんのことじゃろ」
 コプさん意味ありげに笑った。K君馬鹿されたような気がした。
「おい親父、今わしに機関方言うとろが、なんのことぞ」
「機関方じゃけれ、機関方言うたんじゃがどしたんぜ」
「小馬鹿にしたようなこと言うな、おちょくっとんか」
「小馬鹿にしとらせんがあ、馬鹿にしとんじゃが、ワハハハハ・・・」
 仲仕連中笑った。
「なにがおかしんぞ」
「おい若いの、教えてやろうか、昔から、土方・馬方・機関方言うての、方の三大馬鹿言うんぞよ」
 K君、初めて聞いて、
「なにわしら、土方や馬方と同じ馬鹿かあ、よし仲仕がどれほどえらいか知らんが、この貨車引張るのやめた、やめた、コプさん、ほったらかしていのや」
 コプさんも時間がないので、
「駅員さんよい、もう間に合わんけんこの貨車、後の便におしや」
 駅へ引き上げた。駅員はオロオロしていた。

 機関庫へ帰ってくると助役が、
「お前ら三津で貨車を引張らなかったんか、駅長がホロホロ言うて来とったぞ」
「ええ、荷役が間に合いそうになかったけれ」
 コプさんが返事をしたが、
「なあにも、仲仕のやつが馬鹿にしたけんよ」
 K君が言うと助役は、
「土方、馬方、機関方言うとろ、世界の方の三大馬鹿とも言うとろ」
「ええ、助役さん、よう知っとるなあ、誰ぞ言うたんかな」
「昔から、仲仕はのう、機関車乗りを機関方と言うて、てがうんじゃ。だいたい、仲仕はのう駅員とはあまり仲がようないんで、機関車乗りとは仲がええので気安さから言いよるんじゃ」
 K君、どんなに言われても、腹が立って仕方がない。
 当分、貸物運転の時は、土方・馬方・機関方が気になり、高浜、三津の引込み線えは、駅員や仲仕がどう機嫌取っても、機関車の調子が悪いと言って困らせた。
附記
 高浜、三津駅の仲仕さんは、船の荷役もするので、沖仲仕と呼ばれていました。

 沖仲仕さんの荷役で感心したのは、貨車と、貸物船との間に渡してある板の上を、荷物を担いで渡るのですが、板にしなりがあり、船は水に浮いているので安定がなく、ゆらゆらしているのですが、上手に拍子を取って、ひょいひょいと、渡っていました。私も、真似をしましたが、一寸や、そっとで出来ませんでした。長年の年期を積まなければ出来ない業とおどろきました。

“ぴょんぴょんと はねて荷物は 貨車のなか”

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