伊予鉄道株式会社

坊っちゃん列車に乗ろう!

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坊っちゃん列車物語

第6話「チャンバラ」

 4月12日隻手薬師の大縁日である。満員の列車は田窪駅に到着した、お参りの老若男女がどやどや降りて行く。
 K君、何気なく振り向くと、十人ぐらいの若い者がホームの反対側に飛び降りて様子を見て逃げ出そうとしている。
「あっ、ただ乗りじゃ、村長さん、わしゃつかまえてくるけんな」
 いうが早いかK君機関車から飛び降り若いもんを追って行った。
「コラー、マテー、おどれらどこの若いもんぞ、ゼニぐらい出して汽車に乗れよ、わしゃ、お前らをただ乗せるため汽車の缶焚いとんとちがうぞ、さあ駅長にゼニを出してあやまれ馬鹿タレ」
「おお、ゼニぐらい払うが、おどれ缶焚きのくせにえらそうなことぬかすな、おぼえとれよ」
「なにぬかす、文句があるなら何時でもこい相手になってやる」
 啖呵を切ってやり返した。

 その夜入庫すると昼間の若い連中十人ぐらいが、めいめいぼくとうなど持って機関車の乗降口に立ちはだかった。
「やい、缶焚き降りてこい、今日はわしらをボロクソにぬかしたネヤ、こらえんぞ」
 これを見た村長機関士、
「昼間の若いもんか、まあ待て暴力はいかん話せばわかる」
「やかましい、何ぬかしとんぞ、親父にいうとんとちがわい、助士じゃが、こら降りて来いどづいたるけん」
 これはオオゴトになったとK君、だが負けてたまるかとデレイキ(火床整理に使う光の曲がた鉄の棒)の光を真赤に焼いた。
「さあこい、この鉄の棒で大やけどさしたる」
 と相対した、そこえ機関庫の連中が五、六人かけつけた。
「K、どしたんぞ」
「こいつらが、ケンカ売りに来たんじゃが」
「なにや、こいつらどこのもんぞ、みんなで踏みつぶせ」
 K君は、仲間が来てくれたので勇気百倍になった。
「さあおどれら、こらえんぞ、もとは、お前らが悪いんじゃ」
 さあたいへん、大立廻りが始まろうとした時、誰が呼んだのかパトカーがやって来た。
 村長機関手が証人となり、けんか相手とK君達警察のお世話になる事となった。
 一応相手が悪いと言う事で話合が付きはしたもんのK君と相手達一晩留置所でお世話になった。
附記
 各線で縁日のため乗客の多い日がありました。
横河原線: 春祭で、田窪の隻手薬師さん
平井谷の観音さん
初夏で、横河原の水天宮さん
森松線: 冬で、言うまでもなく椿さん
郡中線: 夏祭で、郡中の住吉さん
 これらのお祭は現在でもお客が多いので有名です。
 機関庫の若い連中は、仕事柄、血の気の多いものが多く、このような喧嘩沙汰など多くあり、乗客とのトラブルなどでは、駅員さんや、車掌さんは、手を焼いていました。
 若手機関士や、助士は良く娘さんにもてて、差し入れなどもらっておりました。特に、お祭には、おもち、おすしなどが多く、椿祭りには、おたやんあめを、よう喰わん程もらって弱っていました。そんな事が、地元の青年たちが気に入らず、娘のとりあいで、喧嘩をしたことなど沢山ありました。

“大啖呵 切った手前で 負けられず”

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