伊予鉄道株式会社

坊っちゃん列車に乗ろう!

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坊っちゃん列車物語

第9話「乗りおくれ」

挿絵「おおい、いのぜ帰えろうぜ、何をしよんのぞ」
 K君、面白がって汽笛を鳴らしていた、田窪駅でのことである。最終便で市駅へ到着で終り。
「コプさん困ったかい」
「どしたんぜ、何時まで待たすつもりで、お客さんも困ろげ」
 駅員と車掌が弱り切っている。
「それがなあ、もう一人の車掌が乗っとらんのよ」
「なんじゃ、横河原を出る時は乗っととろが」
「見奈良を出る時、コプさんが可成の速度で列車を引張ったけん相棒がよう乗らんかったらしい」
「そんなこと、わしゃあ知るかあ、仕事なら仕事らしゅうせんけんいかんのじゃが」
 コプさんとK君は、横河原へ行く時、機関車のうしろの貨物車の車掌が、貨物車に娘を連れ込んで、いちゃついていたので腹が立ち、帰えりには見ておれよとばかり、見奈良で思い切り列車を引き出した。
 市駅行は貨物車は最後尾であり速度が早いので予定が狂い、乗ることが出来なかった、いや、乗せてやらなかったのである。

「コプさん、うまいこといったぜ」
「そうよ、馬鹿タレが、娘と、いちゃつくけんよ、面白うなったぞ、お前行って文句言うてこい」
 コプ機関士、K君をけしかけた。調子に乗ったK君、
「よいよい、どしたんぜ、朝まで待たすんけ、着いてから、かれこれ時間が立つがぁ、車掌一人ぐらい、どうでもええがや、いのぜ」
「まあそう言うなや、もう少し待ってくれ、今考えとんじゃけれ」
 駅員と車掌は、手の打ちようがないので困り果てていた。見奈良駅は無人駅なので連絡が出来ない、そのうち乗客から文句が出始めた。
「あっ、きたきた、やれやれじゃコプさん発車してえな」
 発車合図があった、乗り遅れた車掌は、暗い線路道を転びながら走って列車を追ったらしい。

 市駅へ到着した、乗り遅れた車掌がやって来た。
「あんたらちいと無茶がすぎらいわしゃ、あんまり速いんで、あわてて乗りそこない、ホームから転げ落ち命を落しよったが、これ見てくれわやじゃが」
 車掌は顔に傷があり、ズボンのすねあたりがやぶれ、血もにじんでいる、帽子はない、靴はどろどろであり、うらめしそうににらんでいる。
「おおげさに言うな、お前がとろとろしよるけんいかんのじゃが、おまえけに列車を遅らしとろが責任を取ってもらうぜ」
 日頃、列車の車掌は、乗客が乗り終わると発車合図をして、列車が動き出してから格好良く上手に乗る。そこをコプ機関士、うまく利用したのであった。

 翌日、乗務課より苦情が来た、乗り遅れた車掌が怪我しているので公傷で休ますと言う事であった。機関庫の助役は、ことの始末をコプさんから聞いていたので、列車を遅らせた責任が先じゃと、逆ねじを喰わして、一件落着。
 その後、その車掌は列車に乗り首だけ出して発車合図をしていた。ホームから落ちたり、夜おそく暗い線路道を転びながら走った事が、相当こたえたらしい。
附記
 列車の編成は、平常の場合、客車4輌、車掌室付客車1輌、貨車1輌計6輌でした。車掌は、両端の車輌に乗っており、車掌室付車輌に乗っている車掌が、専務車掌で、駅の責任者や機関士との運転関係の打ち合わせを行っていました。
 横河原、森松行の場合、機関車、貨車、客車5輌となり、郡中行は、逆の編成となっていました。

“汽車発車 車掌を乗せず 客を乗せ”

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