![]() K君、何気なく振り向くと、十人ぐらいの若い者がホームの反対側に飛び降りて様子を見て逃げ出そうとしている。 「あっ、ただ乗りじゃ、村長さん、わしゃつかまえてくるけんな」 いうが早いかK君機関車から飛び降り若いもんを追って行った。 「コラー、マテー、おどれらどこの若いもんぞ、ゼニぐらい出して汽車に乗れよ、わしゃ、お前らをただ乗せるため汽車の缶焚いとんとちがうぞ、さあ駅長にゼニを出してあやまれ馬鹿タレ」 「おお、ゼニぐらい払うが、おどれ缶焚きのくせにえらそうなことぬかすな、おぼえとれよ」 「なにぬかす、文句があるなら何時でもこい相手になってやる」 啖呵を切ってやり返した。 その夜入庫すると昼間の若い連中十人ぐらいが、めいめいぼくとうなど持って機関車の乗降口に立ちはだかった。 「やい、缶焚き降りてこい、今日はわしらをボロクソにぬかしたネヤ、こらえんぞ」 これを見た村長機関士、 「昼間の若いもんか、まあ待て暴力はいかん話せばわかる」 「やかましい、何ぬかしとんぞ、親父にいうとんとちがわい、助士じゃが、こら降りて来いどづいたるけん」 これはオオゴトになったとK君、だが負けてたまるかとデレイキ(火床整理に使う光の曲がた鉄の棒)の光を真赤に焼いた。 「さあこい、この鉄の棒で大やけどさしたる」 と相対した、そこえ機関庫の連中が五、六人かけつけた。 「K、どしたんぞ」 「こいつらが、ケンカ売りに来たんじゃが」 「なにや、こいつらどこのもんぞ、みんなで踏みつぶせ」 K君は、仲間が来てくれたので勇気百倍になった。 「さあおどれら、こらえんぞ、もとは、お前らが悪いんじゃ」 さあたいへん、大立廻りが始まろうとした時、誰が呼んだのかパトカーがやって来た。 村長機関手が証人となり、けんか相手とK君達警察のお世話になる事となった。 一応相手が悪いと言う事で話合が付きはしたもんのK君と相手達一晩留置所でお世話になった。 |
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附記 各線で縁日のため乗客の多い日がありました。
機関庫の若い連中は、仕事柄、血の気の多いものが多く、このような喧嘩沙汰など多くあり、乗客とのトラブルなどでは、駅員さんや、車掌さんは、手を焼いていました。 若手機関士や、助士は良く娘さんにもてて、差し入れなどもらっておりました。特に、お祭には、おもち、おすしなどが多く、椿祭りには、おたやんあめを、よう喰わん程もらって弱っていました。そんな事が、地元の青年たちが気に入らず、娘のとりあいで、喧嘩をしたことなど沢山ありました。 “大啖呵 切った手前で 負けられず” |