伊予鉄道株式会社

坊っちゃん列車に乗ろう!

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坊っちゃん列車物語

第5話「五エ門風呂」

 K君、今日は庫内番である、乗務しないので新米の庫内手を集めて古参風を吹かしている。
「さあ、工場の連中も帰ったけん、ボチボチ、風呂の湯を抜きかえ、沸かすかいネヤ」
 と、新参の一人を連れて風呂場えやって来た。
「Kさん、あんまり早く湯を沸かすと自動車の合宿の連中が這入りに来てうちの乗務員が這入る頃には、ぬるうしてしまんじゃがな」
K君、そこで考えた。
「よしゃ、わしにまかせ、風呂の缶も機関車の缶も、缶に変りがあるかあ機関車のつもりで、じゃんじゃん焚けよ」
 K君達、風呂缶が走り出すかと思う程焚き出した。
 俺が沸した風呂に、他人に先に這入られたらたまらんと、風呂場に通じる水道の元栓を締めて知らぬ顔の半兵衛ときめこんだ。

 K君の考えでは、バスの合宿の車掌がくるものと思っていたら、頭のデッカイ知らないオッさんが、フンドシ姿のまま、手拭ぶらさげて、事務所へ走って来た。
「チョボさんよい、わしが風呂に這入ろと思って風呂のフタを取ったら湯が、クラクラ煮えとるがや、おまけに水が出んかい、裸になったもののこれはえらいこっちゃ、ああ寒いハ、ハ、ハクション』
 顔を見ておどろいたチョボ監督、『これはこれは、どうもすみません又、うちの若いもんが悪さをしたらしい、すぐ水を出しますから」
チョボ監督、さっきの裸の親父にペコペコして顔色をかえ、K君達の所へ飛んで来た。
「K、風呂の水止めたんお前じゃろが早よう水を出さんか、本社の課長さんプンプンおこっとるぞ、風邪でもひかしたらどないするんぞう」
 大目玉を喰らった。
 まさか本社の課長さんが工場の風呂にくるとは思わなかった。K君あわてて水道の元栓を開けた。

 その夜、乗務員が帰ってくると夕方の事が話題になり、
「まあ、伊予鉄広しといえども、本社の課長さんを裸で走らしたんは、Kぐらいなもんじゃろ」
 とチョボ監督、聞いていたK君しりこそばなったので、じわりとその場を抜け出し一人風呂に入って威張っていた。
附記
 機関庫、工場の者は、勤務終了すると風呂は必要であり、五エ門風呂の大きなのが二つ並んでありました。一人ではゲス板が浮いてしまい二人で這入らなければならず、全部で五人は入れる風呂でした。
 日勤の工場の連中が勤務終ると、自動車整備、保線係、電路係と大勢の人が入浴していました。
 入浴が終ると、機関庫の若い者が湯を抜きかえ、沸かし始めると、合宿の自動車の車掌さんが入浴に来ており、又、近所の社宅があり、社員の人が子供達を連れて来ておりました。先程の本社のえらい人は、機関庫の南の、中の川添いに住居があり入浴に来て事務所へ寄り、話をして帰るきさくな人でした。
 私が自動車へ転勤になり、労働組合執行部の一員として始めて、団体交渉に出席した時、そのえらい人は重役さんになっており、交渉が始まる前に、
「Kボよい、お前に裸で走らされたのう、お前は、悪じゃったネヤ」
 みんな大笑いをしました。私は、古い、昔の出来事を、良く覚えているもんだと感心したもんです。
 それから、その重役さんと顔を合す事があると、
「Kボ、がんばっとるか、事故がないよう、体に気を付けてやれよ」
 と、はげましてくれて、定年近になっても、若い頃と同じく、KボKボと声をかけてくれました。

“風呂の中 肩書きはずして みな裸”

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