![]() 「堀川の荷物は、荷役がすんだら側線まで押してこないくまいが」 「そうぢやけど、仲仕が少いなので荷役がちょっと遅れとるんよ」 「Kよい、久し振りに堀川の浜風を吸いに行って見るかいの」 機関車に駅員を乗せ荷役場へ行った。荷役場では、仲仕数人が船から荷物を貨車に積んでいた。 コプさんとK君、仲仕の仕事を見ていたが仕事が一向に進まない。 「コプさん、このまま待ちよったら遅れてしまうぞな、わしゃ、文句言うたろ」 K君、頭に一寸きていた。 「おいさんら、さっさっと荷物を積んだらどうぞな、わしら、いつまでも待ちよるわけにいかんがな」 「若い機関方よい、そう言うな」 K機関方と言われて、びっくりした。 「コプさんあの仲仕、わしに機関方と言うたが、なんのことじゃろ」 コプさん意味ありげに笑った。K君馬鹿されたような気がした。 「おい親父、今わしに機関方言うとろが、なんのことぞ」 「機関方じゃけれ、機関方言うたんじゃがどしたんぜ」 「小馬鹿にしたようなこと言うな、おちょくっとんか」 「小馬鹿にしとらせんがあ、馬鹿にしとんじゃが、ワハハハハ・・・」 仲仕連中笑った。 「なにがおかしんぞ」 「おい若いの、教えてやろうか、昔から、土方・馬方・機関方言うての、方の三大馬鹿言うんぞよ」 K君、初めて聞いて、 「なにわしら、土方や馬方と同じ馬鹿かあ、よし仲仕がどれほどえらいか知らんが、この貨車引張るのやめた、やめた、コプさん、ほったらかしていのや」 コプさんも時間がないので、 「駅員さんよい、もう間に合わんけんこの貨車、後の便におしや」 駅へ引き上げた。駅員はオロオロしていた。 機関庫へ帰ってくると助役が、 「お前ら三津で貨車を引張らなかったんか、駅長がホロホロ言うて来とったぞ」 「ええ、荷役が間に合いそうになかったけれ」 コプさんが返事をしたが、 「なあにも、仲仕のやつが馬鹿にしたけんよ」 K君が言うと助役は、 「土方、馬方、機関方言うとろ、世界の方の三大馬鹿とも言うとろ」 「ええ、助役さん、よう知っとるなあ、誰ぞ言うたんかな」 「昔から、仲仕はのう、機関車乗りを機関方と言うて、てがうんじゃ。だいたい、仲仕はのう駅員とはあまり仲がようないんで、機関車乗りとは仲がええので気安さから言いよるんじゃ」 K君、どんなに言われても、腹が立って仕方がない。 当分、貸物運転の時は、土方・馬方・機関方が気になり、高浜、三津の引込み線えは、駅員や仲仕がどう機嫌取っても、機関車の調子が悪いと言って困らせた。 |
附記 高浜、三津駅の仲仕さんは、船の荷役もするので、沖仲仕と呼ばれていました。 沖仲仕さんの荷役で感心したのは、貨車と、貸物船との間に渡してある板の上を、荷物を担いで渡るのですが、板にしなりがあり、船は水に浮いているので安定がなく、ゆらゆらしているのですが、上手に拍子を取って、ひょいひょいと、渡っていました。私も、真似をしましたが、一寸や、そっとで出来ませんでした。長年の年期を積まなければ出来ない業とおどろきました。 “ぴょんぴょんと はねて荷物は 貨車のなか” |