![]() 係長に言われた。 「わしがな、前に注射に行ったら看護婦のやつが機関庫の連中は作業服でくるけん、きたないじゃの、よごれじゃと、ぬかしたけん腹が立ってみんなに言うたら、みんなも同じ目に合い、怒ってしまい診療所へ行かんようになったんじゃがな」 「よごれじゃの言われても本当じゃけん仕方がなかろうが、めんどいこと言わず、注射に行けや、病気になったらどうするんぞ」 「病気になったらそれまでよ、ここでハイそうですかと注射に行ったら機関庫魂のめんつが立たんけんな、どうしても行かせんぞな」 「馬鹿たれ、なにをぬかすか、そこに機関庫魂がついてたまるか、横着なやつが」 とうとう係長は、怒ってしまった。だがK君達助士連中はどうしても注射に行かなかった。 今度は厚生課長がやって来た。白いマスクを口からはずし、 「みなさん、看護婦の悪い点は、あやまります。風邪引きにでもなったら会社が困りますから、特にみなさん方は、第一戦の乗務員さんですから宜しく頼みます」 人のよさそうな課長さんである。 「課長さん、予防注射をしたんかな」 「私は、ちゃんとしましたよ」 「課長さん、白いマスクをしとるが風邪引きかな」 「ええ、一寸風邪ぎみよ」 「予防注射をした課長さんが、風邪ぎみじゃの言うたら、注射は、きかせんのじゃないですか」 「そんな・・・」 みんなは口々に、 「そうじゃ、そうじゃ」 とやり出した。 「課長さん、ききもせん注射をしにあんな看護婦がいるあいだは、わしら、だあれも行かせんぞな」 とうとう厚生課長も怒らして追い返してしまった。K君達は機関庫魂を見ておれよと調子に乗っていた。 ところが、年末のボーナス支給がやって来た。 「さあ、ボーナスを渡す、助士連中は腕まくりをしてこい、注射をした者から渡すぞ」 見ると看護婦が出張して来て注射器を持っている。その向こうに係長席があるから注射をしてからでないとボーナスが貰えない。 K君達とうとう注射をしなければならなくなった。特にK君は借金払いのためどうしてもボーナスを貰らわんことにはいかん、仕方なしにみんなの一番あとに並んだ。 順番が来て腕まくりをし看護婦につき出した。胸くそが悪いが仕方ない看護婦をにらみつけた。 「Kさん前には悪かったわ、・・・ごめんね」 ニッコリ笑ったので、Kのいう機関庫魂とやらはどこへ行ったのかニッコリ笑い返して係長席へボーナスをもらいに行った。 |
附記 当時のボーナスは、賞与と言って賞によって与ると言う事で個人それぞれ金額が違っており現在のように支給される前から金額が決っておらず、支給されてから喜んだり、頭へ来たりしたもんです。 「い・ろ・は・に・ほ」と五段階ぐらいに分れていて助手や庫内手は下から、「に・ほ」ぐらいで、可成の成績でなかったら「は」は、もらえませんでした。 昇給も同じような配分でした。私達数人の悪の連中は、何時も一番下ぐらいの評価しかなく、その方が気が楽でした。変に上司に気を使うこともなく機関庫の悪たれとして通りましたが、退職して見ると、同僚との退職金の違いを知りました。 “腹立てず ボーナス評価 当り前” |