![]() 休憩所へ帰ってくると。 「Kさん今日は、わかっとろ」 三角屋のねえさんである。 「今月は頼むよ、三ヶ月もたまっとんよ」 踏切の酒屋で働いているおばさんも来ている。 三角屋は、機関庫の横にある菓子や果物を売っている店、踏切の酒屋は機関庫の前の店、給料日なので借金取りに来ていた。 「おばさん達ようきたな、だいぶたまっとろ、よし今月は、と思ったがそうはいかんのじゃがな」 「なんじゃあな」 「わしはな、払わん同盟に参加しとるけん払うわけにいかんがな」 「あれ、みんなあんなこと言うて、払うてくれんと困るかい、払わん同盟言うたらなんぞなもし」 「これはなあ、如何なる事があっても、借金など支払関係は絶対払ろたらいかんと結束し署名までしてある同盟よ、わしゃ、払い度いんじゃが、払うと、同盟に支払った額と同じ金額を罰金として、払ろわないかんのよ、おばさんら、罰金を払ろうてくれたら借金払ろわい」 「そんな無茶苦茶な」 若い機関士や、助士連中は、酒呑みは踏切へ、甘い物が好きな者は三角屋へと、その結果、安月給のくせに可成の借金があった。 借金の多い連中が相談し、ボーナス迄、引伸しのため払わん同盟なるものを作ったのである。 会長に、若い者に人気のある村長機関士になってもらい、副会長にはK君がなっていた。 「さあおばさんらお帰りや、同盟がある限りダメ、これにて一件落着、さあ帰った、お帰りはこちら」 「そんな無茶な、勝手な言い草があるもんか!」 他にも、数人いた借金取りも、ぶつぶつ言いながら帰って行った。 「やった、やった、うまいこといったネヤ、K副会長、毎月これでいこうぜ、会員をもっとふやそうぜ」 同盟に参加している連中が、K君をもち上げた。K君も調子に乗っていた。 翌日、村長機関士とK君、係長に呼ばれた。 「払わん同盟なるつまらんものを作って、借金を払わんちゅうじゃないか」 「誰が言うたんぞな」 「馬鹿たれ誰でもええわい、機関庫の信用問題じゃ、そんなものすぐ解散じゃ、村長お前もなんじゃ、ええ年をして」 村長さん恐れ入っていた。 「係長さん。ボツボツ喰うたり、飲んだものは、すぐに払わんと、ボツボツ払ろたらよかろがな」 「なにい、この大馬鹿者が、そんなこと言うなら、Kお前の給料から、借金払いはしておいて残りを渡してやる覚悟せい」 「ええ、そんな無茶な」 「やかましい」 同盟は、解散させられたが、借金を一ヶ月伸ばすことができたので、うまいこと言ったわいとK君達、舌をペロリと出していた。 |
附記 機関庫の若い連中は、非番になると、暇を持てあまし、いらん金をよく使っていました。 現在のように、競輪やパチンコのようなバクチ的なものがあれば、可成の借金を作ったと思いますが、せめて喰うたり飲んだり、映画へ行くぐらいでしたから大きな借金もせず済んだもんでした。 工場、電路、保線、整備の、若い連中も、機関庫の若い者と同じように、三角屋、踏切の酒屋には、よく出入をしていました。 “払うとき 次も貸してや 頼みます” |