伊予鉄道株式会社

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坊っちゃん列車物語

第20話「賽銭箱」

挿絵 事務所のなかで、助役・監督・古参機関士連中が集まり相談をしているが、どうも顔色が良くない、今年の機関祭のことらしい。

「Oよい、今年の機関祭は予算が少ないので割勘が多くなるぞ、さっきチョボさんがこぼしよったかい」
「なんじゃあ、わしゃ酒が強よないのに割勘じゃ損じゃが、Kよい、なんとかならんのか」
「よし、お前、工場の大工さんと、心易かろが、頼みがある」

 今年の機関祭は予算が少ないので、みんな割勘が多くなる話で持ちきりであった。
 会社からは、祭壇費は出るが、飲み喰いは、職場で積み立てている互助会費と、みんなの割勘で、まかなっていた。

 当日、機関庫の二階に、神様が祭られ祭壇が出来上った。
 本社のえらい人や、市駅からも多数やってきた。機関庫の上司に続いて、非番の乗務員も集まり、後のほうに控えた。氏神様の神主が、仕度ができ、祭壇の前に進んだ時、今じゃとばかりK君、O君が、工場で作ってもらった賽銭箱を祭壇の前へ素早く置いた。集まっていた人は、びっくりし、神主さんは、きょとんとしていた。
 神主のお祓いも終り、参列した来賓、機関庫員が順番に拝む。目の前に賽銭箱があれば、日本人なら、常識でお金を入れるはずである。K君そこがねらいであった。
 一番最初は、本社の重役さん、祭壇の前に進み出た、賽銭箱が目に付き、財布の札束から一枚抜いて、賽銭箱に入れ拍手を打ち拝んだ。さすが重役さんである、ちゃら銭は入れなかった。
「しめた」
 K君、小声でつぶやいた。機関庫の係長さん、ウロウロしている。
 次の人から順次、お金を入れて拝み出した。K君の策はまんまと図に当った。まごつく人もいる、機関庫の連中でも入れる者がでてきた。

 祭壇の前で、宴会になった。
「Kよい、賽銭箱の作戦はお前じゃったんじゃの、殊勲甲じゃ、ようやったのう」
 チョボ監督がほめてくれた、かなりのお金が集まったらしい。
 今日の宴会の主役は、神様ではなくK君である。みんなも喜んでくれて大いに飲んで喰った。
 K君も自慢の踊りで楽しく、今年の機関祭は最高である。

 後日、係長さんから
「今年は終わったので仕方ないが、来年からは賽銭箱は、見苦しいけんやめてくれよ」
 念を押された、だがみんなも喜んでくれた事じゃし、まんざらではないと得意顔が数日続いた。
附記
 旧暦の十一月八日は、フイゴ祭である、フイゴは鍛冶屋さんでは絶対必要であり、火を起すのに風を送る道具で、今のコンプレッサーの役目をしており手動です。
 フイゴ祭には、鍛冶屋さんの工場で、フイゴのある家は、お祭をしていて一年の労を、フイゴと共に、ねぎらっていました。
 機関車も、ボイラーを積んでいて蒸気で、フイゴの役目をしており、機関祭としてお祭をしており、神主さんにお払いをしてもらって機関車に感謝し、全員が二日間にわけてお祝をしておりました。
 車輌課、整備課では、現在でも盛大に、フイゴ祭は行われており、毎年楽しみにしているそうです。
 城北に鍛冶屋町という町があり、鍛冶屋さんが軒を連らねて並んでいました。フイゴ祭の日は、一日ゆっくりフイゴを休ましお祭をしておりました。午後、学校から子供たちが帰ってくると、屋根から、餅やみかんを撒き賑わったものです。

“賽銭が 酒とさかなに 化けており”

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