![]() K君、古町地方の、四角、八角みこしの、四角のみこし守りで、毎年祭り本番には、申し合せ勤務で休んでは、みこし守りをしていた。 今夜は、森松へ行って帰れば勤務も終り、古町のお宮に行って、大好きな喧嘩みこしに、ロープを巻きに行くのでウキウキしていた。 列車が立花駅を発車した時、前方の踏切にみこしの一団がやって来たのですぐに止めた。 「ワッショイ、ワッショイ」 と勇ましい、大人みこし、子供みこしでなく、中みこしで中学、高校生が大半である。列車を止めたみこしは、踏切上でねり出した。踏切番がうろうろしている。 「村長さん、このみこし調子に乗ってやり出したなあ」 「若い奴らだけに、始末が悪い」 駅員と踏切番がやって来た。 「村長さん、一寸待ってえな。みこしじゃけれすぐのくぞな」 だがみこし守りは、列車が止まったので調子に乗り出した。 「モーテコイ モーテコイ」 鉢合せの格好などをして、なかなかやめようとしない。大人や子供みこしなら、頭取や世話人がいて、ちゃんと統制を取ってくれるが、中学、高校生となると面白がって無茶が過ぎて始末が悪い。 乗客から苦情が出始めたので、駅員と踏切番が、退くように言ったが、きき目がない。 「へらこい連中じゃ、このまま突込んでやろうか」 「村長さん、そう言わんと待ってやろや。わしもみこしが好きなけん、よう気持がわからい。年に一度じゃけれやらしてやろうや」 「調子に、乗せたら、なんぼでも遅れるぞ。車掌に言うて、客車のブレーキを閉めさせておけ」 客車を動かさんようにして、機関車の動輪だけを廻るようにした。 「Kよい、しゃんと缶焚けよ。ええか、よしやるぞ」 「ボーボボボボボー」 機関車は排気音も高らかに、動輪を思い切り空転さした。踏切上で練っていたみこし守りは、機関車が向かってくるものと思い、びっくりしてみこしを、どすん、と音をたて落して逃げ出した。 「よしうまいこといった。今のうちじゃ、みこしを取りのけい」 駅員と踏切番が、みこしを踏切上からのけた。 列車は無事通った。逃げ出したみこし守りの連中は、ポカンとして列車を見送っていた。 こんな、のんびりしたよき時代の機関車とみこしの取り組みはよくあったもんです。 |
附記 松山の城下祭は、十月五日の宵祭から始まり、六日の夜から、七日の朝まで、三津、道後、古町の順で、夜中から、喧嘩みこしの宮出しがあるため、高浜線の電車は、夜通しで運転をしておりました。 当時は、お祭の料理は魚料理で、朝からみこしの宮出しに合せて、御馳走を喰い、一ぱいやっていましたので、三津の魚市が夜通し行うため、電車の夜間運転とは別に、魚屋専門列車として、三津〜松山市駅間に夜間運転していました。 城下祭が終ると、十月十四日、十五日に列車沿線地方の祭です。 ◎横河原線、久米、小野、重信、川上地方 ◎森松線、石井、浮穴地方 ◎郡中線、岡田、松前、郡中地方 以上、中通り祭として賑わったものでした。 “さあこいと みこしと機関車 はち合わせ” |