伊予鉄道株式会社

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坊っちゃん列車物語

第14話「優勝」

写真「元気でいこう、三・三・七拍子、拍手、タッタタータッタタ・・・・・・」
 応援団長の扇子はあざやかにふられている。ところは、我が社の梅津寺球場、今日は、前日から行われている戦後初めての各職場対抗野球大会、運輸課チームと機関庫チームが優勝戦となり、試合は白熱化して来ている。

 九回の表1対1の同点、運輸チームの攻撃、K君キー投手とバッテリーを組んでいた。このキー投手のおかげでここまで勝ち進んだ。
「キーよい、これはえらいことじゃランナーは出たし、次のバッターはよう打つぞ、お前が打たれたらおしまいぞ、守っとんが頼りないけん」
「おお、まかせ、わしがきりきり舞をさしてやる、お前しゃんと受けてくれよ」
 キー投手、たのもしい。

 いよいよツーアウト、ランナー一塁、次のバッターは守備の上手な三塁手、色の白い運輸チームきっての好男子、この選手の活躍は可成なもんである。K君良く当っているので、敬遠するつもりでサインを出したがキー投手ど真中え。
「しまった」
 待ってましたとばかり、カーンとレフトフライ、ところが打つのはよう打つが守りは下手な、炭水係の炭水松、バンザイをしてしまった。
 一塁のランナーは一挙ホームイン、打ったランナーは、三塁へすべり込んだ。球は、外野手から三塁手へ、タッチアウト、三塁上ですべり込んだままの、ランナーに三塁手が思いきり飛び上り足で踏んだ。
「ギエー」
 と、一声出してのびてしまった。
「うまいことやったぞ、あいつがおらんようになったけん、ええぞ一点は取られたが逆転じゃ」
 応援団は、バケツ、鐘太鼓をどんどん、じゃんじゃん、運輸チームから監督が文句を言いに来た。
「機関庫、ちいと無茶がすぎらい、うちは怪我人が三人もでて困るが、お前らの野球じゃないが喧嘩じゃが、ええかげんにせいや」
「なんじゃあ、勝負ごとは命がけよ文句ぬかしたら駅に貨車があっても引張ったらんぞ、もう二三人カタワにしたろか」

 仕事の話まで出して、ワイワイガヤガヤ、さあ機関庫の反撃、今回トップバッターK君から簡単に打ってサードゴロ、ところが相手チームの上手な三塁手がのびて退場しているため、かわりの三塁手がトンネルをした。
 K君一塁、累乗へ、次のバッターは、強打者の炭水松。
「炭水松、汚名挽回ぞ」
 左バッターボックスへ、第一球、カーンと、心地よい球音。球は、ぐんぐん伸びた。ライトの選手が海岸の塀まで行けど大きく越え、初夏の大空の彼方へ、そして、海の中へ、劇的なツーラン逆転サヨナラ、ホームランである。応援団は、おどり始めた。

 投手力だけのチーム、喧嘩ごしの機関庫チーム、大方の予想をやぶり優勝をさらってしまった。
 運輸チーム、その他、機関庫と対戦したチームの連中は、機関庫とはあぶのうて、まともに試合ができん暴力団と同じじゃと言い、今度から試合をする時は、警察に審判を頼まないかんとぼやいていた。
附記
 社内の職場対抗野球大会は、梅津寺球場で行われており、審判は、野球部の連中が当り、選手として出場出来ませんでした。
 当時の野球部は、のちに国体で優勝したぐらいですから可成強く、松山地方では有名でした。
 客貨車係員であった、キー投手は野球部に引き抜かれたため、機関庫チームは、その後出ると負け、出ると負けが続きました。

 ”勝負ごと 根性だけでは 勝てません”

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