伊予鉄道株式会社

坊っちゃん列車に乗ろう!

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坊っちゃん列車物語

第13話「小便」

挿絵 初夏の太陽が、真夏のように照りつける午後、釜焚きが苦労する夏、列車は、あえぎながら、無事見奈良駅へ到着した。
「クロさん、横河原迄、ゆっくり走ってな」
「よし、暑いけれ無理すなよ、ぼちぼち行こうわい」
 登り勾配が続き、缶の焚き通しが続いた。あと一息である。勾配がきついので無理せずゆっくりと登ることにしていた。

 列車は、排気音も軽く一仕事を終った余裕か、ゆっくりと横河原へと松林を進んでいる。機関車より身を乗り出して涼しい風に吹かれていい気持ちになっていたK君。列車の後部を振り返って見ると、一番前の客車にいた学生が、飛び降り小便をやり出した。
「この野郎、なめやがって」
 見ていると、小便が終り一番あとの客車に飛び乗った。
「横着な奴じゃ、承知せん」
 今迄も、学生が面白がって、飛び降りたり、飛び乗ったりすることはあったが、小便して、又乗ったのは始めてであった。横河原駅へ無事到着した。

「クロさん、機関車を廻しておいてな、あいつらを、やっちゃる」
 K君、お客が改札口を出ている方向に走って行った。
「こらー、お前ら一寸待てえ」
 四、五人の学生がいた。
「今、列車から飛び降りてションベンしたのは誰ぞ、お前か、あぶないのになんであんなことするんぞ」
「わしゃあ、ションベンしたかったからよ、伊予鉄の客車には便所がなかろがな」
「便所がなけりゃ、駅へ着くまで我慢せい、ほかのお客さんは辛棒しとろが、汽車に乗る前にちゃんとしとけ、ぶちまわしたろか」
 ものすごい剣幕である、びっくりした連中は、
「おいさん、こらえてえな、わしら立花の坂で汽車が止った時なんか、何時も押しよんぞな」
「やかましい、それとこれとはべつじゃあ、学校え言うたろか」
「実はなあ、みんなで、一番前で降り、ションベンして、一番あとに乗れるか賭をしたんよ。今日はいつもよりゆっくりしとるけん、わしが勝ったんよ」
「なんじゃ、なんを賭けたんぞ」
「たばこよ」
「なんじゃ、高校生のぶんざいで、たばこ吸うたりしてよもだぞよ」
「このたばこあげるけん、もうこらえてえな」
「よし出せい、もうすなよ、今度やったら半殺しにするぞ、今日はこらえてやろわい」
 K君、たばこを取り上げた。

「Kさんよい、可哀想なことをしてやるなや」
 駅長が言った。
「なあに、上等よ、くせになるけん一ぺんコシャンとやらな」
 K君調子に乗っていた。それからその学生連中と、悪は悪らしく仲よくなり、ちょいちょい機関車に乗せてやったりもした。
附記
 私が、転勤になりバス運転士をしていて、貸切に乗務の時、団体は、自然科学教室で、各小学校の子供の集りでした。私のバスの責任の先生が、御機嫌ですかと挨拶をするのでびっくりしました。
 話しているうちに、私にたばこを取り上げられた高校生であり、なつかしい出来事であった話に花が咲きました。学校では、子供達に、坊ちゃん列車の思い出話をするそうです。
 昼食時、雨となり食事をバスの中で行い、先生が子供達に、汽車の話をしてくれませんかと言うので、出発時間まで、思い出話をしたことがありました。

“用便を 終るまで待つ 田舎汽車”

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