![]() 今までは、見習で乗務したり、ラッシュ時、増結車の補助機関車に乗務していたが、今日からは一人立ちでありグット貫禄もでようと言うものだ。 今日は、森松線乗務、機関士は、K君と最も親しいクロ機関士。 市駅を汽笛一声高らかに発車、機関車の調子も上々で石手川の土手も無事乗り越え立花駅へ到着した。 駅では、腹のでた助役がホームで通票を持って待っていた。通票交換のため顔を出したK君を見ると、「よう坊や、今まで見習いぢゃたが今日から缶焚きさんけ、まあうまいことおやりよ」 子供に言うように言った。 「クロ兄、前から思っとったが、えらそうな助役ぢゃなあ、わしのこと坊やぢゃのぬかしやがって、むねくそが悪いかい」 「まあ、そういうな、お前を励まそうと思ったんぢゃろが」(ようしカタキをとってやろう)K君心にきめた。 列車は、森松駅を折り返し、立花駅の近くを進行している、K君、鉄の輪の通票の先を、缶の火で焼いてかまえていた。 駅では先ほどの助役が立っている。助役は市駅〜立花間の通票をK君に渡すと、K君から森松〜立花間の通票を受取った。 「アチチチ・・・」 助役は、ホームへ通票を投げ出した、手のヒラから煙が出ている。 「こりゃ坊ず、通票を焼いたろが横着もんが、あいたたた・・・」 「助役たるもんが、通票を投げ出していくまいがや」 K君は、悪くたれついて、ニコニコ笑っていたが、助役は、歯ぎしりをしてニラミ返していた。 機関車へ帰ってくると、チョボ監督に呼ばれた。 「Kよい、立花の助役に焼いた通票を渡しとろが、手のひらをヤケドした言うて、ブツブツ言いながら電話してきたぞ」 「わしになあ、坊やぢゃのぬかしたけん腹が立ったんよ」 「なんぼ、腹が立っても、ヤケドする目に焼いたらいくかあ、ヤケドせん程度に、適当に焼いて渡してられや、要領が悪いぞよ」 なんのことはない、チョボ監督はK君を叱るどころか悪知恵をつけているようなもんぢゃった。 それから森松、横河原線乗務する度に、その助役がいると腹が立ち、缶の灰箱の石炭ガラを一ぱいためておき、立花駅に落としてやった。 「うちの駅だけに、ガラを落とさずによその駅にも落とせや」 文句を言い出したがK君くり返し落としてやった。ひどい時には、ポイントを越えると灰箱を少し開けバラバラ撒きながら走った。ホームと線路の間は、石炭ガラだけとなり掃除するのに手間がかかり、それ見たかと胸をなでおろしていた。 「Kよい、駅にガラを撒きながら走るのはやめや、助役が掃除するんぢあない、一番下の駅員が掃除するけん可哀想ぢゃろが」 クロ機関士が言ったので、ガラを撒きながら走るのはやめてやった。 |
附記 通票は、鉄の輪に、三角や四角、円形の鉄板が付いており、運転する駅間の駅名が掘り込んでいました。 当時の列車離合、通票交換駅 森松線=立花駅 横河原線=立花駅ー平井駅 郡中線=岡田駅 石炭ガラは、離合駅と終点駅で落し処理することになっており、他の駅では特列の事がない限り落とさないことになっていました。 “通票は 安全運行 確実に” |