![]() 「Kおい、お前どしたんぞ、その顔は、服もよごれとるが」 O助士がたずねた。 「わしゃ、そこで喧嘩して、やられたかい」 「なんや、誰にやられたんぞ横着な、よし仇を討たる」 四、五人の連中が勢い込んだ、 「Kよい、、そこへ連れて行け」 O君が先頭に立ち、K君をかけしかけた。K君は、花園町にある、バラックが立ち並んだ、一軒の飲み屋へ連中を連れて行った。 みんなは、一ぱい機嫌のため、調子に乗っている。 「この店じゃ」 O君、店の戸を一寸開け、中をのぞいて、戸をピシャッと閉めた。 「ありゃいかん、やくざじゃ、Kお前やくざと喧嘩したんか」 「そうよ、わしが堀の内から帰りよったら、若いのが、面を切ったじゃのぬかしたけん、一発いてこましたら連れがおって袋だたきにあわされてしもうたんじゃ」 「馬鹿じゃネヤ、やくざ相手じゃ勝目がない、いのいの、いのぜ」 「お前ら、仇を討たるじゃの言うてどうなっとんぞ」 「相手が悪いわい」 連中が帰りかけると、あとからついて来ていた、炭水松、この男、酒を飲ますと、めんどい。 「お前ら引返したりすな、敵にうしろを見せな、ついてこい」 素面のときはいいけれど、お酒が這入ると、虎、狼となる、その上、力が強いから始末が悪い、森の石松のような男である、戸を開けた。 「今、うちの若いもんを、可愛がってくれたんは、どいつぞう」 「わしじゃが文句あるんか」 「おどれかあ」 いきなり、大きな八手みたいな手で、相手の顔に平手打ちを喰わしてしまった。相手は、目を白黒して、腰掛もろともひっくり返った。 「こりゃ、子分になにをするんぞ」 「やかましい、おどれもか」 「おのれ、これが見えんか」 パッと上半身裸になった、鯉の滝上りの入墨が出た。腰掛に座り、背中を見せた格好は、遠山の金さんばりである、やくざの貫禄を見せたつもりじゃが、腕にヒロポンの注射のあとが点々とあり、やせているので鯉が、いわしに見える。 「そんなもの見せても、おじるわしじゃないぞ」 又もや、大きな平手で、鯉の上をバシーと、大きな音がした。 「わいた、イタタタ・・・」 わめいて、座り込んでしまった。相当こたえたらしい、背中の鯉が手型で赤くあれ上り緋鯉になった。 「この野郎、親分と兄貴をようもやったネヤ」 子分二人が意気込んだ、 「くるなら来い、お前らみたいなごくつぶし、ひねりつぶしたる」 子分二人の、首筋をつかんでしめ上げた。子分はバタバタしながら、 「ウワー死ぬる、助けてくれー」 機関庫の連中、これはえらいことになった、まさか炭水松が、やくざ相手に大立廻りやるとは、それにしてもなかなか強い。 警官がやって来た。飲み屋の主人が呼んだらしい。 関係者一同、市駅前派出所へ、警察が入り、親分と炭水松、K君が一筆書いて和解した。 和解条件として、やくざが仕返しするなら、ヒロポンの関係、たたけばほこりの出る関係で、引張ってしまうとの警察の立ち合いだった。 その後、職場では炭水松の武勇伝が当分続いたが、酒を飲ますのは、一同気を付けていた。 |
附記 機関庫と工場の間に、消防車の車庫があり、三輪消防車でした、管理は、整備課の担当で、社宅にいた整備課の班長さんが行いました。 夜間に社員が多くいる、機関庫員が応援しており、隊長は、機関庫の課長さんが兼任していました。 当火災後、冬期には、エンジンのかかりを良くするため、夜間、ラジエターの水を抜き、お湯を入れる作業を不寝番が行いました。 松山城の筒井門が火災になった時に、当社の消防車も出動し、私達数名も出動しましたが、県庁の横の登山口にて予備消防隊として待機をしました。その出動費として、一人、一金二百円をもらったのを覚えております。 “しづまりし 車庫、機関車の 火を守り” |