伊予鉄道株式会社

坊っちゃん列車に乗ろう!

  • 坊っちゃん列車 TOP
  • 坊っちゃん列車物語
  • 坊っちゃん列車講話(MOVIE)

坊っちゃん列車物語

第16話「炎天下」

挿絵 石炭は石のようである、硬いし重たい、缶のなかで思い切り燃えてくれない。燃えカスも灰にならず、石コロのようになり、始末に弱る。この夏の使用石炭は、悪いどころのさわぎでない、ひどい目に助士泣かせであった。

 K君カンカン照りの炎天下、横河原方面へ進行中、腕もへし折れんばかり焚き続けるが、蒸気が思うよう上ってくれない、悪戦苦闘そのものである。
「クロさん、平井で少し行き座りじあかい」
「そうじゃネヤ、この調子じゃあ無理じゃの、対抗列車が待ちよるけん平井までがんばれよ」

 平井駅は離合駅である、対抗の乗務員は退屈しているのか機関車から離れホームのベンチに座り込んでいる、列車はあえぎながら到着した。Kさん、クロ機関士と協力し悪炭を焚き、横河原迄行ける蒸気、缶の湯の確保に汗だくである。
 おまけに機関車のロット、シリンダーに潤滑油を差さなければならない大いそがしであった。
「ピリ、ピリピリ」
 発車合図があった、二人はそれどころではなかった。
「オイ、発車合図が聞えとろが、早いとこ発車せんかい、何をとろとろしよんぞい」
 今日の車掌は、日頃高浜線の電車の運転手で、格好をつけキザで有名な男である、臨時に列車の車掌として乗務していた。日頃の車掌なら、機関車に調子を合わせ、機関士に、協力している。
「なにを言よんぞ、調子が悪いけん少し待て」
「缶焚きが、トロトロしよんじゃろが、しゃんとせいや」
 シリンダーに油を差しながら聞いていたK君、キザな格好と合わせて、頭にきていた、ようしやったると、油指しの蓋を取り、車掌の近くに寄って行った。
「よい、そこらまありで、うろうろするなよ」
 言いながら、油指しを相手に引掛るよう振り廻した。油は飛び出し車掌の頭からシャツまで、降りかかりドロドロの油だらけになった。キザな格好がわやである。
「うわ・・・・・・これはたまらん、なにをしよるんぞ」
「やかましい、機関車の横でヨモヨモ言よるけんいかんのじゃ、言うとくがわしゃ、わざとやったんじゃあないぞ、ついじゃけんの」
 K君、ニコーと笑い、
「ザーマー見やがれ」
 小声で言って知らぬ顔の半ベエと決め込んだ。

 運行が終り、運行報告に行くと、助役が、
「Kよい、平井で車掌に油をあびせたんかあ、弁償せいと言よるぞ」
「なんなあ弁償な、横着もんが、わしゃなあ、わざとじゃないんぞがな、機関車のそばでうろうろしよるけんいかんのじゃあ、ついじゃがな、なあクロさん」
「まあ、そうゆうことよ」
「わざとじゃあないんじゃの、よし乗務課え言うて始末してやる」
 それにしても、あいつの格好、面白かったと大笑いになった。
 機関車の乗務員に、いちゃもんつけても、上司は、ちゃんと始末してくれるから安心であった。
附記
 平井駅は離合駅で、横河原行は、上り坂が綿き、遅れることが多く、市駅行は、下り坂で、早く到着するので余裕がありました。
 そんな時、駅の南側の農協集荷場に、農産物の集荷がありましたが、秋になると、松茸が沢山集まり、不良品の傘の折れたのをよくくれたので缶で焼いて喰ったり、事務所へ持って帰り大きな釜で松茸めしを焚き、よく喰ったもんでした。

“炎天下 煙、くろ黒 汗も黒”

←第15話/第17話→