伊予鉄道株式会社

坊っちゃん列車に乗ろう!

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坊っちゃん列車物語

第26話「金一封」

挿絵 初春の午後、ポカポカと心よい気温とリズミカルな機関車の震動に乗務員の眼の皮もたるみがちである。
 郡中駅を出発してカタコトもうすぐ郡中港駅である。終点のため列車は下り坂を速度を落としている。

 今度、市駅に帰ったら非番じゃがどうするかいネヤ・・・モヤのかかりかけた頭で段取りを操っていると、クロ機関士が叫んだ。
「ありゃー、ホームの下で子供が二人遊んどるがや、Kよいお前行って子供をのけてこい、駅員はなにをしよんぞいネヤ」

 よしゃとばかりK君は、機関車から飛び降りて、徐行している列車の前を走って行き子供を線路の脇に追い出した。
 ついでにK君駅舎の中へ飛び込んで行った。
「コリャ、駅長!!列車の到着前にサボッタラいくまいが、もう一寸で子供二人も殺しよったが、ええ年をして何のために月給もらいよんぞ・・・ボケナス!!」
 K君が、おらび出したので、列車到着の監視をしていなかった駅長、様子がはっきりせず、剣幕に押されて、四角い顔を余計に四角にしてうろうろしている。
 普段は、一寸えらそうな態度の駅長をへどましたことで胸がスーッとしたK君意気洋々と引き上げた。

 それから数日経って係長が、クロさんとK君を呼んだ。
「お前ら、この間郡中線で何ぞあったんか、運輸課から報告書が廻ってきとるぞ、見たら機関士と助士の機転で危機一髪!!命をとして二児を救うと書いてあるかい、お前ら何も言わんけんわからんがや」
「なあに、たいしたことではないんですが、Kに大啖可を切られたもんじゃけん、駅長が時分の落度を言われると困るので、先手を打って報告したんじゃないですか」
「そうか、まあそんなことはどうえもええわい、悪いことじゃないけんこの通り報告してやるけんの」

 係長は機嫌がよかった。
 それから数日して、又二人は係長のところへ呼ばれた。
「オイ、おまえら人命救助の表彰状と金一封がきとるぞ、うまいことやったのう」
 K君思わずニコニコした。
「ヨイヨイうまいことやったネヤ、表彰状はどうでもええが、金一封がええわい」

 チョボ監督を中心に同僚が二人をはやし立てた。
「その金で日切焼でも買うて喰うたらうまかろネヤ」
 チョボ監督が一同が本音を代表した声に結局男気を出して、二人の金一封は日切焼に化けてしまった。
 K君は日切焼をパクつきながら、
「生まれて初めての表彰状じゃのいうものをもろうと、悪い気はせんがあれくらいの事で大げさにして、おまけに金までくれて会社と言うところは、案外他愛のないもんじゃ」
 と思ったりした。
附記
 機関庫の勤務は、助役、監督、乗務員は、交番表で交替勤務をしており、正午から十四時頃迄に交替をしていました、午前勤務者は、勤務が終ると町に遊びに行ったもんです。
 農業をしている人が多く農繁期には、非番を利用して百姓をしておりましたが、私達町人は、用事がなく遊ぶ金もなく困ったもんでした。
 田植や、稲刈り頃に、非番で百姓の人の代りに申し合せ勤務しており普通は、勤務で帰してもらうんですが、町人は、喰う米が充分でなかったのでお米で勘定してもらっており助かりました。
 日切焼は、戦後復活しましたが、当時は、まだまだ値も高く一寸手の出ない喰いものでしたが、あみだくじなどでよく買って喰っていました。

“腹一ぱい 喰って見たかった 日切焼”

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