伊予鉄道株式会社

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坊っちゃん列車物語

第24話「煙突」

挿絵「Kよい、時間ぜ起きよ」
「おお、もう時間け、今朝は特別に寒いネヤ」
「そうよ、夜中にめずらしく雪が降り積ってのう」
 松山地方には、珍しく雪化粧で夜も明けてないのに、雪明りで明るく美しかった。

 五時二十分に単機で出発し、横河原発六時の市駅行の運行である。
 出庫準備も終り、コプ機関士がやって来た。
「お早よう、寒いと思ったら、大雪じゃがあ」
 車庫を出発した、駅員さんがポイント附近の雪を払い除けている。
 線路は雪で真白、機関車が通るとあとは、黒く、二本の線路が正しく平行線となってくる、黒煙を吐く、機関車と、雪化粧の配色が見事であり、美しい。
 立花の土手に登った、松山方面の景色を振り返って見た、最高だ、立花を過ぎ、久米に近づくにつれ、雪の量が多くなっている。

「Kよい、お城山を見ろ」
「ああ、見事じゃあ、こんな景色はめったに見えんなあ」
 北久米あたりで見る城山は、松山地方の、どの方向で見るより美しいが、今朝は格別であった。
 鷹の子附近から、可成の雪となっている、機関車は調子良く、機関室は暖かい。

「ありゃ、コプさん雪の山じゃ」
 機関車を止めて見た、平井駅の手前右側に竹藪があり、その竹藪に雪が積り左に倒れ、線路上に、小山のようになっていた。
「Kよい、雪を払い除けや、これじゃあ通れんぞ」
「コプさん、めんどいのに、このまま突込もや、機関車が雪を払い除けるぞな」
「それもそうじゃ」
 機関車は、勢い良く竹藪の中へ、ドサーと、鈍い音をたて突込んだ、機関車は雪だらけになり雪を払いのけて通過した。

「やった、うまいこと行った、あららら・・・、コプさん煙突がない」
「ほんとじゃ、これはえらいこっちゃがな、オオゴトじゃ」
 機関車が突込んだ時、煙突が引掛り折れて左の田の中に落ちている、煙突を積み込み、平井駅に着いた、平井駅の当直者が、
「あれ、煙突がないが、どうしたんぞな、不格好なもんじゃなあ」
「よもよも、言よらんと電話を貸せ、救援の機関車を呼ばないかん」
「このまま運転おしや」
「馬鹿たれ、煙突がなければ、客車を引張って走るだけの蒸気ができんのじゃが」
 二人は大慌てである。救援機関車がやって来たので乗り移り、横河原始発を少し遅れ、無事発車することができた。

 平井駅で、煙突の折れた機関車を連結し機関庫へ帰った。
「お前らは、無茶苦茶ぞよ、お前ら二人をいっしょに乗せておくと心配ながや、てんぷでいかん、お前ら二人の乗組は、今後、考えさしてもらう」
 助役から大目玉を喰らった。それにしても煙突は折れよいものだ、たれ下った電線に引掛り、折れたこともある。
 雪景色と煙突のない機関車とのバランスの取れない話でした。
附記
 機関庫と工場の間に、消防車の車庫があり、三輪消防車でした、管理は、整備課の担当で、社宅にいた整備課の班長さんが行いました。
 夜間に社員が多くいる、機関庫員が応援しており、隊長は、機関庫の課長さんが兼任していました。
 当火災後、冬期には、エンジンのかかりを良くするため、夜間、ラジエターの水を抜き、お湯を入れる作業を不寝番が行いました。
 松山城の筒井門が火災になった時に、当社の消防車も出動し、私達数名も出動しましたが、県庁の横の登山口にて予備消防隊として待機をしました。その出動費として、一人、一金二百円をもらったのを覚えております。

“しづまりし 車庫、機関車の 火を守り”

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