伊予鉄道株式会社

坊っちゃん列車に乗ろう!

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坊っちゃん列車物語

第2話「日本酒」

「お前ら正月三ヶ日は、のんびりやれよ」
 チョボ監督の、やさしい言葉である。今日は、正月元旦。
 庫内勤務のK君達、朝から詰所の隅でのんびりしていた。
「若い衆よ、庫内のやかんの茶を捨てて、きれいに洗って全部持って、わしについてこい」
「彦左さんどこえ行くんぞな」
「まあ、まかしとけ」
 大先輩、彦左機関士のあとをついていくK君ら3人が、やかんを2つづつ持って行ったところは、本社の新年祝賀会の会場であった。
 会場では、会社のえらい人達が沢山来ており、社長さんらしい人が、挨拶を行っていた。
 彦左機関士とK君らは、音を立てないように、うしろのほうに、しゃがみ込んだ。
 白い布をかけた長いテーブルの上には、武士心と、レッテルのついた一升瓶が並んでおり、スルメも千切られて盆に盛ってある。
「これぢあの」
 K君ら合点した。
 話が終わると乾杯である、女子社員がそれぞれの人に酒瓶とコップを持って廻り始めた。
「よい、その酒を早よわからんようやかんに入れや、スルメも早よポケットに入れよ」
 彦左機関手の一声で、K君達、会場を、チョロ、チョロと廻り、酒をやかんに入れた。駅員さんや車掌さん連中も同じようにやっている。
 機関庫へ帰ってくると、待ち構えていた、助役やチョボ監督、先輩がほめてくれた。
「ようやった、彦左さんのお手柄ぢや御苦労さん、全部で5、6升はあろぞい、やかんとスルメはそこえ置いておけ、庫内手の連中はやかん1つもっていけや」
 チョボ監督が、やかん1つ渡してくれた、3人と庫内助手5人で予備機関車の缶で酒を沸した。
 日頃から闇焼酎ばかり呑んでいる連中には、熱燗のコップ1ぱいで気分良く酔の廻る思いだった。
「こりや、機関車が動いとるが、誰ぞ乗っとんかあ」
 コプ機関士がとび乗って来た。機関車が止まった所は、ポイントの割出し寸前である。オダを上げている時誰かの手がブレーキに触れて、ゆるんだらしい。
「こりやオオゴトになるとこぢゃつたぞ、お前らのなかに、未成年もおろがや、清酒を呑みやがって、なんぼ正月でもええかげんにせいよ」
 5人はコプさんに最敬礼、
「よし事務所えは、言うわせんけん、その酒こっちえよこせ」
 久しぶりの清酒は、やかんに可成残したまま、コプ機関士の太い手に握られて連中の前から消え去った。
附記
 終戦後、2、3年は、酒飲みが一番苦労したんではないですか。日本酒なんか出廻っているわけではなく闇焼酎を求めて飲んでいました。
 機関庫の車庫周辺の職場は、保線係、電路係、駅手のそれぞれ詰め所があり、酒呑みの連中が共同で闇焼酎を買い求めて飲んでいました。
 闇焼酎に、猫入らずを少し入れると、度が強くなり表面がキラキラ光るので金ゴリと呼び愛飲しておりました。
 景気が良くなり始めた頃から、清酒も出廻り、機関庫の前の踏切のところに酒屋さんがあり、勤務の終わった伊予鉄、四国配電の社員が一ぱい引掛けにに立ち寄っており、特にここの酒の肴に豆腐の煮たのは、うまいと評判で食事の時には良くみんなで利用していました。
 市駅前附近に飲み屋は沢山ありましたが、踏切の酒屋さんは、正規の値段ですから安いし、豆腐がうまいので本当に酒の好きな連中が集まり飲んでいました。

“メチールを 飲んだ機関車 良く走り!!”

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