![]() K君、庫内予備番である。 「クロさん、どしたんぞな」 「電車が、異線進入した、機関車で押し出してやる」 チョボ監督も乗って来た。 「K、シャンと焚けよ、クロ、さあ行け」 市駅構内では、高浜線の電車二輌連結が、列車貨物線に進入し、トロリ線がない所で止っている。 電化されているのは、高浜線だけである、側線は貨物線でトロリ線がない。 高浜の貨物列車が市駅へ到着後、ポイントを電車線に切り替えて置かなければならないのに、駅員さんがどうも忘れたらしい。 電車の運転士と駅員が、顔を真青にしてやり合っている。 「貨物が通ったあと、ポイントを正常にもどさないくまいが」 「なにや、ポイントがどうあろうと確認せないくまいが、どこに目を付けとんぞ」 双方共、責任逃れで、ひっしこである、体はぶるぶるふるえている。 「お前ら、ええかげんにせんか、今はこの電車をどうするかが、問題じゃろが、喧嘩はあとでゆっくりとやれ、馬鹿たれ」 チョボ監督が怒った、駅長が、 「チョボさん、機関車で電車二輌が押せようか、重いぞな」 「馬鹿にすな、体は小さいが力もちぞよ、心配すな」 「連結機が合うまいがな」 「保線へ行って、枕木を借りてこいや、二、三人取りに行かせ」 5号車は、力が一番強かった、保線係員が枕木をかついで応援にやって来た、 「なんぼ機関庫の連中が、いがくでも、めんどうでも、ありゃあ、無理ぞよ」 口々に言っている、ホームの乗客はこれは見ものじゃと、ワイワイ、ガヤガヤとやってくる。 K君も一寸心配したが、釜が破裂せんばかりに焚いた。 機関車と電車に枕木を合わした。クロ機関士は汽笛一声、発進をしたが、ボボボ・・・と排気音を高らかに出して空転をくり返し電車は動きもしなかった。 「クロ、チョットのけ、わしにまかせ、K、線路に砂をまけ」 今度は、チョボ監督が、電車に体当りの調子で発進させた。 ボッボッボッと排気音も高らかに吐く煙も勇ましく動輪が回転を始め出した。少し動けばしめたもの、機関車は、これ見たかと、ありったけの力で電車を押し始め、電車は自分の力で走れる所まで押し出された。 ホームの乗客や、附近にいた社員たちは大拍手であった。 「やれやれ、チョボさんありがとう、助かったかい」 「駅長、案外馬鹿にしたもんじゃあなかろうげ」 チョボ監督は、鼻高々である、鼻と下のヒゲが光って見えた。 「クロとK、どうぞ年期がちがおうがあ、伊達に、永年、機関庫でめしを喰っとらんぞ、ワハハ・・・」 大声で笑った。当分の間、機関庫の連中は、チョボ監督の自慢話になやまされた。 |
附記 蒸気機関車は、煙を吐いたり、作業人員が多く必要であったり、欠点が多く、現在なら公害で文句も出そうな気がしますが、長所として、自分の持っている力以上に三倍から四倍の力を出す事が出来ました。 ポイントは、本線は駅構内で操作していましたが、機関車のように側線を利用する場合、貨物の入れ替え作業する時などは、駅手さんが、機関車に同乗しており、その度毎に、ダルマポイントを反転さしながら、作業をしておりました。 “力強く 吐き出す煙 頼もしい” |